日本環境学会幹事会では、2015年6月20日に日本のエネルギー政策に対する声明「原発依存に固執するエネルギー政策の危険性~原発・化石燃料依存から持続可能な再生可能エネルギー体系へ転換すべき」を発表しました。
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>>【幹事会声明】原発依存に固執するエネルギー政策の危険性~原発・化石燃料依存から持続可能な再生可能エネルギー体系へ転換すべき(2015/06/20 PDF140KB)
原発依存に固執するエネルギー政策の危険性
原発・化石燃料依存から持続可能な再生可能エネルギー体系へ転換すべき
2015年6月20日
日本環境学会幹事会
日本は、福島第一原発事故災害や気候変動問題に直面しており、脱原発と化石燃料消費削減がエネルギー政策の大きな課題となっている。しかしながら、政府が策定した「エネルギー基本計画」(2014年4月)や「長期エネルギー需給見通し(案)」(2015年5月)は、2030年においてもなお原発や化石燃料(とくに石炭)に大きく依存する計画になっており、これらの課題に応えるものになっていない。
まず、原発問題について、国は再稼働の条件として「いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、国民の懸念の解消に全力を挙げる前提の下に」というが、その条件は整っていない。なぜなら、①避難対策は規制審査から外され、理不尽にもその作成を自治体に押しつけている、②原発立地は避難のことを考えて検討されるべきであるが、立地適合性に関する規制が欠落している、③原発利用やその安全対策にかかる責任体制が依然あいまいなままである、④多重防護を施しても軽水炉原発技術に内包されるリスク要因は依然払拭されていない、⑤規制基準に適合しても安全性は保証されない、事業者の自主的取り組みでは原発の安全性を確保できない、⑥日本は地震・火山列島であり、地震・火山によるリスクを最重要視するべきなのに軽視している、⑦40年を過ぎた老朽原発は装置の劣化進行などの問題がある、⑧核燃料サイクルシステムを確立できる見通しも、放射性廃棄物の処理処分の見通しも立っていない。したがって、科学・技術的問題や社会受容性に鑑みて原発の利用は断念すべきである。
次に、気候変動の悪影響を最小にするため、世界の大幅な温室効果ガス排出削減が求められている。国連気候変動枠組条約締約国会議では、世界の気温上昇を産業革命前から2℃未満に止めることを合意文で確認している。IPCC第五次評価報告は、世界の温室効果ガス排出削減目標として2050年に2010年比40~70%削減、2100年にはほぼゼロにする必要があると指摘している。欧州諸国は、2℃未満の気温上昇抑制を目標とし、2030年の中期目標を40~50%削減に設定している。日本政府は、温室効果ガス排出量を2030年に「2013年比26%削減」(1990年比18%削減)との目標を示したが、気温上昇抑制の必要性に触れておらず、各国から削減目標の低さが問題視されている。
原発と気候変動のリスクを解消する唯一の方法は、エネルギー使用量を大幅に削減し、原発・化石燃料から再生可能エネルギーへ転換することであると考える。日本の温暖化対策研究には、脱原発を前提で、温室効果ガス排出量を2020年に25%以上、2030年に40%以上削減することが、技術的に可能であるとの報告がある。つまり、国内には省エネ対策と再生可能エネルギー普及の現実的可能性が、十分存在していることを示している。しかし、政府は実効性のある省エネ対策と再生可能エネルギー普及の促進政策、石炭削減政策を実施していない。
長期エネルギー需給見通しは、国内に豊富に存在する再生可能エネルギーの普及を現状のわずか2倍に抑制しており、急激に普及が進んでいる諸外国の流れとは逆行している。再生可能エネルギーは「不安定」「費用が高い」などの問題があると指摘されるが、これらは誤った見識と言わざるを得ない。「不安定性」については、ドイツなどではデマンドレスポンスや広域送電網によってほぼ克服されている。また「費用が高い」については、日本ではマイナス面ばかりが議論されるが、経済効果というプラス面を合わせて検証する必要がある。省エネ対策や再生可能エネルギー普及は、事業や雇用創出する経済波及効果が極めて大きく、地域の発展につながっていくのである。
日本の環境・エネルギー政策は脱原発・脱化石燃料・再生可能エネルギー中心の持続可能なエネルギー体系を目指すべきである。なお、エネルギー政策・計画には安全、環境問題が強く関わってきている。エネルギー政策・計画は批判や異論を充分に踏まえて策定すべきであり、原発の賛否や環境政策の見解などで異なる立場のメンバーを含めて検討することや、国会で審議する民主主義的プロセスが必要である。日本環境学会は、従来から安全と環境保全のためには省エネ対策と再生可能エネルギー普及の促進を目指すべきだと考え、研究や実践活動を続けてきた。今後も、我々は、エネルギー・環境の諸問題への批判や代替案を提起する研究活動に取り組み、持続可能な社会への転換に向けた政策提言を行っていく所存である。
(以 上)