日本環境学会は、気候変動枠組条約第17回締約国会議の結果を踏まえて、提言「日本は京都議定書第二約束期間に参加し、2020年に25%以上の温室効果ガス削減を確約すべきであり、それこそが産業発展と雇用の創出、地域の自立的発展を可能にする道である」を発表しました。
日本が地球温暖化防止の国際的責務を果たすとともに、日本の産業発展、雇用創出、農山漁村をはじめとする地域の自立的発展などを実現する観点で、活かしていただければ幸いです。
日本環境学会提言2011年12月22日発表(PDF16KB)
以下全文をテキストで掲載いたします。
2011年12月22日
提言「日本は京都議定書第二約束期間に参加し、2020年に25%以上の温室効果ガス削減を確約すべきであり、それこそが産業発展と雇用の創出、地域の自立的発展を可能にする道である」
日本環境学会
南アフリカ・ダーバンで開催された気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)は、2011年12月11日未明、京都議定書の2013年からの第二約束期間を設定し先進国の目標を強化すること、2015年までに新興国なども参加する新たな議定書・法的文書・法的成果を制定すること、について合意して終了した。今回の合意には前進面もあるが、先進国の目標強化の制度改正を決められず、各国の対策強化を担保できないなどの課題が残されている。このままでは、将来世代の生存基盤が危機に陥る可能性が高く、対策強化に向けた国際合意はこれ以上の遅れを許されない。
なお、COP17において、日本政府がとった京都議定書の延長反対と第二約束期間への不参加表明という対応はまったく不適切であり、国際的な対策強化にまったく貢献できず、日本の国際的信頼を低下させることになった。そればかりか、このような対応は今後の日本社会の持続可能な発展を阻害しかねないものである。
日本環境学会は、日本が京都議定書第二約束期間に参加し、1990年比で2020年に25%以上の温室効果ガス削減を確約するよう、ここに提言する。以下に述べる通り、それこそが、日本に対する国際的信頼を高め、環境保全型産業の成長促進と雇用の創出、地域の自立的発展を可能にする道である。
先進国の目標強化が先決。第二約束期間反対は問題
今回の会議では、日本政府は自らが議長国を務めた1997年のCOP3で採択された京都議定書の延長に反対し、第二約束期間に参加しないことを表明した。これは自国の削減義務を回避し、先進国としての温暖化問題への責任を放棄するものであり、日本の国際的評価を損ねるものである。今回のダーバン合意を受け、日本政府はこの方針を見直し、先進国の責任として第二約束期間に参加してより高い削減目標を掲げ、それを実現する国内法と政策措置を備えるべきである。それによって、今後の国際社会における包括的で効果的な法的枠組みを実現することに大きく貢献することができ、日本への信頼を回復し、高めることになる。
日本は25%削減目標を維持強化し、具体的裏付けある対策・政策を
「2020年25%削減」目標は、2009年に鳩山首相(当時)が国連で表明する以前に、現政権党がマニフェストで国民に約束した政策である。従来の温暖化対策の柱は「原発依存」であったが、2011年3月の福島第一原発事故を受けて、菅首相(当時)はエネルギー政策を「脱原発依存」に転換すべきと表明したとおり、脱原発を進めながらも、省エネ対策と再生可能エネルギー普及・燃料転換を組み合わせて25%削減を実現するスタートラインに立ったところである。
日本環境学会ではエネルギー・地球温暖化問題についての研究成果を踏まえて、これまでも提案(提言「震災復興と脱原発温暖化対策の両立を可能にするために」、2011年4月16日、など)をしてきたが、既存の最良の技術普及を適切に促進できれば、脱原発を進めながらも、省エネや再生可能エネルギーなどで2020年に25%以上の削減を達成することは十分に可能である。
このような対策の実現には、それを促進・担保する政策が不可欠である。まず、25%以上の削減を法定目標にすべきである。また、2012年7月施行予定の「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」が目標達成に十分な効果を発揮するために、その制度設計に際しては再生可能エネルギー電気設備所有者が売電収入で総必要経費を補償されるようにすべきである。さらに、地球温暖化対策税(炭素税)、国内排出量取引制度、再生可能熱普及制度などの導入に向けた政策検討を早急に行うべきである。
温暖化対策が地場産業発展・雇用拡大に寄与。農山漁村地域の蘇生や震災復興にも貢献。
日本政府や日本経団連などには温暖化対策の強化が国内産業の発展にマイナスになるとの誤解が根強いが、むしろ温暖化対策は新たな環境保全型産業発展と雇用創出につながり、さらに農山漁村地域の内発的発展や東日本での震災復興に大きく寄与する可能性が高い(「日本環境学会緊急提言:震災復興と脱原発温暖化対策の両立を可能にするために」)。
温暖化対策を強化すれば、2020年頃にはエネルギー消費が削減されることで化石燃料輸入費を年間数兆円以上も節減でき、省エネや再生可能エネルギーへの投資によって国内経済の活性化をもたらし、数十万人の雇用を創出できるであろう。現在、世界の再生可能エネルギー産業の雇用はすでに350万人に達している(出典「世界自然エネルギー白書2011」)。温室効果ガスを22%削減しているドイツでは、再生可能エネルギー産業の雇用が37万人に増加し、日本の六大温室効果ガス排出産業(火力発電、石油精製、鉄鋼(高炉など)、化学工業(無機化学と有機素材)、セメント、製紙)や原子力産業の雇用を上回っている。今後、温暖化対策を強化することで技術開発が推進されると、自動車排ガス規制が日本の自動車産業の国際競争力を高めたように、日本の環境産業が急速に発展する。また、再生可能エネルギー普及推進政策が、資源の豊富な農山漁村地域が食糧とともにエネルギーの供給源ともなり、新たな発展をもたらすこともドイツ等の事例からも実証されている。
脱原発と震災復興、2020年温室効果ガス25%削減は同時達成可能
将来世代が安心して暮らせる環境を残し、かつ持続可能な社会に移行する産業・雇用を発展させ、被災地や地場の産業・雇用のため、温暖化対策の抜本的強化が不可欠である。日本政府には、京都議定書への早期復帰表明、「25%削減」の法定目標化、それを担保する新たな制度の導入を求めたい。温暖化対策は地域社会の発展に結びつくことから、自治体にも、「持続可能な低炭素地域づくり」の対策・政策議論を始めることが求められる。
政策の立案や実現には多くの知恵を結集していく必要がある。日本環境学会も積極的に協力していきたい。