日本環境学会では、下記の通りの緊急声明を発表しましたことをお知らせいたします。
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東京電力福島第1原発事故による放射能汚染問題への緊急提言(PDF12KB)
以下全文をテキストで掲載します。
東京電力福島第1原発事故による放射能汚染問題への緊急提言
2011年6月11日 日本環境学会第37回総会
2011年3月11日の東日本大震災に端を発する福島第1原子力発電所(以下、「原発」と略)の爆発事故などによる放射能汚染は、大気、水質、土壌などにとどまらず、生物、農産物、水産物などまで及んでいる。3ヵ月経った現在でも、原発事故は収束しておらず、原子炉1~3号機のメルトスルー(燃料溶融漏洩)、圧力容器や格納容器の損傷などが明らかになり、原子炉からの放射性物質の大気放散と、原子炉の注水冷却による大量の放射能汚染水の海洋漏洩が続いている。原子炉の損傷による原子炉建屋内の高放射線量により、作業員が原子炉建屋内に入り、原子炉の状態チェックや修復作業が困難となっており、事故収束の目途は立っておらず、原発から排出された放射性物質による環境汚染が継続している。
1986年のチェルノブイリ原発事故と同じ国際評価基準のレベル7という最悪の福島原発事故となった。チェルノブイリ原発4号機の暴走爆発事故による放射性物質の環境への排出は、10日間程度であったが、福島原発事故では、90日以上も1~4号機から放射性物質の環境への排出が続いている。福島県一部地域の土壌汚染は、チェルノブイリ原発周辺地域で強制移住の基準となった放射能レベルであり、汚染地域の面積はチェルノブイリ原発事故の5分の1から10分の1という。
大気中に放出された放射性物質は、風に乗り東北・関東地方のみならず、北海道・中部・近畿地方でも検出されている。大気中の放射性物質は、雨や風により地表に落下し、山林、河川水、土壌、草木、建物、農産物などを汚染した。その結果、水産物、灌漑用水、水道水、浄水・下水汚泥、焼却汚泥、母乳などの二次的な放射能汚染をもたらした。
このように深刻な放射能汚染に対し、政府と東京電力は次の問題がある対応をしている。
①当初、原発事故をレベル4と過小評価し、その後の悪化でレベル5からレベル7とした。放射能汚染についても、「直ちに健康に影響するレベルではない」とし、当初、警戒(避難)区域を原発から10㎞圏とし、その後の汚染の広がりから20㎞圏、20~30km圏を緊急時避難準備区域とした。しかし、30km圏外でも高放射能汚染地域が存在したために計画的避難区域としたが、このことを「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」による汚染マップで当初から知っていたが、公表せず隠蔽していた。
②原発事故復旧に従事する作業員の許容被曝量を年間50ミリシーベルト・5年間100ミリシーベルトを5年間250ミリシーベルトに引き上げた。また、福島県内の校庭土壌の汚染が発覚し、校庭利用基準を年間1~20ミリシーベルトとしたが、この値は国際的に「非常時の避難参考レベル」であり、通常時は一般人で法定の年間1ミリシーベルトや、放射線作業をする放射線管理区域の年間5ミリシーベルトを大幅に超えている。福島の父母や市民の抗議により、文部科学省は5月末に「今年度の学校における被ばく量を年間1ミリ
シーベルトを目指す」とした。
③下水汚泥や焼却汚泥に高濃度の放射性物質が各地で検出されたが、汚泥の焼却や溶融処理を推奨し、高温の焼却・溶融処理による放射性物質の放出を無視している。
そこで、私たちは政府や東京電力に対して、下記の緊急提言をする。
1.原発事故の内容を包み隠さず、すべて情報公開すること。事故復旧に当たる作業員の許容被曝量を緩和せず、かつ被曝線量の把握に努めて、健康被害を防止すること。
2.避難住民被害、農産物・水産物被害、汚染土壌・汚泥対策費用などは、風評被害も含めて、汚染原因者である東京電力と監督責任のある政府が、国民に負担を転嫁することなく、全額負担すること。
3.山林地、草木、河川水・底質、下水汚泥、震災廃棄物、市街地・農地土壌、建物、空気、海水・底質、農産物、水産物、人体・母乳などの放射能汚染調査を広範囲かつ詳細に実施し、正確な汚染マップを作成し、定期的なモニタリング結果を随時公表すること。
4.食品中の放射能に関する安全基準(セシウム500ベクレル/キログラム)は、諸外国と比べて緩いので、科学的に再検討すること。たとえば、オーストリアは、ミルク・肉類185、野菜111、乳幼児食品1、その他600であり、スウェーデンは、一般食品300であり、ロシアは、一般食品370であり、アメリカは、全食品が370である。ちなみに、チェルノブイリ原発事故後の日本は、全食品370だったが、福島原発事故後に500に緩和された。
5.農地土壌の汚染対策は、カドミウムなど重金属汚染の土壌対策を参考にし、排土客土工法やナタネやヒマワリなどの植物吸収法などの対策の是非を早急に検討すること。
6.子どもをはじめとした住民の被ばく量を低減するために、汚染状況の詳細な調査を実施したうえで、汚染表土の掘削除去など可能な対策をすみやかに行うこと。とくに放射線量が高い地域では、避難や疎開なども検討すること。そのための費用を負担すること。
7.汚染された浄水汚泥、下水汚泥、ヘドロ、震災廃棄物などについては、焼却や溶融処理せず、適切に保管すること。
8.原発は人智で管理することが困難であり、ドイツのように順次廃炉していき、将来的に全廃すること。節電してもなお不足する電力は、太陽光・熱発電、風力発電などの自然エネルギーでまかなうこと。現在稼動している原発については、安全基準の大幅な見直しに基づき存続を判断するが、30年以上経った原発は廃炉していくこと。もちろん新規建設は中止すること。
以上
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