学会声明活動報告

日本環境学会緊急提言:震災復興と脱原発温暖化対策の両立を可能にするために

本日(4月17日)、学会からの提言「震災復興と脱原発温暖化対策の両立を可能にするために」を発表しました。
以下にその全文を掲載いたします。

また、PDFファイルはこちらからダウンロード可能です。
提言「震災復興と脱原発温暖化対策の両立を可能にするために」(2011/04/16 PDF)


提言:震災復興と脱原発温暖化対策の両立を可能にするために

2011年4月16日 日本環境学会

 東日本大震災が起こって1ヶ月が過ぎましたが、被災地では過酷な避難生活が続く中、いまなお一万人を超える不明者がおられるという悲惨な事態に直面しています。一方、東京電力福島第一原子力発電所の事故は、陸海空域に放射能汚染を広げながら、なお事故収束の見通しが立たない深刻な事態が続き、原子力安全・保安院と原子力安全委員会は「国際原子力事象評価尺度(INES)」で史上最悪のチェルノブイリ事故並の「レベル7」に引き上げました。一刻も早く事故収束の見通しを立てることが優先されねばなりません。同時に、困難きわまる被災地の生活の改善、復旧・復興のために、また近づく夏の需要増のためにも安定した電力供給力の確保が急がれます。
 こうした中、環境省や経産省では、4月4日、電力会社に対して発電所新設に係る環境影響評価を免除する方針を検討していると伝えられ、また温暖化対策を困難視する動きが出されてきています。しかし温暖化対策も避けて通れない重要課題です。原発が駄目なのでこの際どんな火力発電でもかまわないといった、震災復興と環境対策が対立するような、また公害や温暖化その他のリスクにより、後になって軌道修正を迫られるような施策を進めることは大いに問題です。
 被災地の生活支援、復旧・復興の課題、および今回の事故で事実上新増設不可能となった原発への依存度を下げる課題、そして温室効果ガス25%削減の課題、これらは決して対立するものではなく、両立可能、むしろ被災地復興とその後の発展により役立つものであると私たちは考えています。この私たちの視点に立った電力・エネルギー施策について、上述のような経産省、環境省の動きに鑑み、緊急に提言するものです。提言は、当面急がれる電力需給確保の応急対策、および温暖化対策を視野に入れた中長期政策に分けて述べています。

0.東京電力福島第一原発の事故対応について
この提言の主旨は表題のとおりである。しかし危機的状態が続いている東電福島第1原発事故が急変する事態にでもなれば、提言する電力・エネルギー施策も具体の論議をするどころではなくなる。一刻も早く事故収束の見通しを立てることが優先されねばならない。
 放射能の漏出を防止しつつ、原子炉を冷温停止状態にするための最善の対策を採らねばならない。福島第一原発、その廃炉処理にこぎつけるのに、この先十年二十年、長い厳しい業務が待ち構えているが、しかし現在の事態への対処は一刻を争うのである。そうでなければ放射能汚染の防止・浄化の見通しも、避難解除の見通しも立たない。政府と東京電力が全力でその責務を果たすことを強く要求する。

1. 当面の電力需給バランス確保の方策について
(1)環境影響評価の免除措置
 報道によれば、4月4日環境省と経産省は電力確保のための臨時措置として、東京電力発電所新設などの環境影響評価の免除(注)する方針という。被災地における被災生活の改善、震災の復旧・復興のために必要な電力を確保することは当然で、異論はないが、しかし一方で温暖化対策も避けて通れない重要課題である。
 災害対応のための限時措置として、時間のかかる手続き的な環境影響評価を免除するとしても、そのために公害をもたらしたり、通常なら地球環境への悪影響を理由に採用されない発電設備が建てられたりするようでは、後々温暖化対策で窮することになる。「震災復興か環境アセスメントか」というような乱暴な議論ではなく、新増設される発電設備が、温暖化対策にも寄与するような方策が工夫されるべきである。そこで、具体策として以下を提案する。
 注:環境影響評価法第52条第2項に、災害対策基本法の災害復旧事業および必要とする施設の新設又は改良に関する事業などについて適用除外規定がある。

(2)電力需給バランス確保の具体的方策について
 単に供給力確保というだけでなく、需給バランス確保という総合的な視点でみれば、①供給力の増大、②需要電力の抑制と調整、③融通電力容量の増大(電力融通ネットワークの広域化)などが考えられる。①だけでなく、②,③も工夫して①の負担をできるだけ緩和すべきである。以下具体策を列挙する。

①供給力に関する方策
ⅰ)大気汚染や温暖化への負荷が極端に大きい石炭や重質石油を燃料とする火力は除くこと。
[付言] 目安として、長期計画休止設備の復活と設備新設を伴わない出力増強以外は、CO2排出量が原油利用、発電効率40%の場合の0.62kg-CO2/kWh未満(発電端)のものを対象とすること

ⅱ)ガスタービン発電機は、燃料はLNG、天然ガス、都市ガスとし、当面はピーク負荷用としても、将来はコンバインドサイクルプラントとして完成させる計画とすることが望ましい。

②需要電力の抑制方策
ⅰ)需要電力量の3分の2を占める「特定規模需要」を中心に需要管理方策を計画し、政策化する。 単なるピークシフトだけでなく、設備投資や運用管理(機器管理の効率向上)で次年度以降の省エネ継続強化につながるものを目指すこと。

ⅱ)夏のピークを形成する業務ビルの電力需要を、営業や職場環境を低下させることなく効率的に行うための支援を行うこと。
[付言] 冷房設備の複数系統の一部を停止する工夫や管理システムの導入、明るすぎる室内照明を落とすための配線改修やシステムづくり、地域のビルで短時間ずつ冷房を停止し、職場環境を損なわずにピーク需要を落とすシステム・協力体制づくり、自販機・温水便座など停止しても問題の少ない機器紹介、夏までに間にあう省エネ改修の診断やリース機器の省電力のアドバイス、その他、省エネ改修・診断支援を広範に行い、国と自治体が協力して相談窓口を設け、超大口でない事業者や業務ビル入居者も電力25%以上の削減を円滑にできるよう支援する

ⅲ)震災被災地での復旧復興で再生可能エネルギー導入、省エネ設備の更新・導入、断熱建築強化などを促進するため、国費負担や長期無利子貸付など思い切った財政支援を行うこと。
ⅳ)再生可能エネルギー導入、省エネルギーを緊急・急速に促進する措置を全国的に進めること
[付言] エネルギー特別会計の電源開発促進勘定などにある原子力関連予算を組みなおし、省エネ余地点検支援や設備投資支援、再生可能エネルギー電力買取補償制度や熱利用推進制度の導入などを実施する。

③緊急に東西間の電力融通容量の増大を図る
現在、東日本西日本間の電力融通を可能にする周波数変換設備の容量は100万kWしかない。報道によれば経産省は4月13日、5年以上かけて数倍に増やす方針を固めたという。周波数変換設備を緊急措置として、より早急に、より大容量の増設を、電力事業者任せとせず、国主導で計画を立て電力事業者に指導するよう提言する。東西間融通が増せば、節電や大口企業などの負荷調整が西日本圏でも分担可能となり、全国で支援することもやりやすくなると考える。

2. 震災復興達成と共に、脱原発で温室効果ガス25%削減の達成を
 東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故は、世界と日本の温暖化・エネルギー政策を見直す契機となっている。原発依存は計り知れない大きなリスクを伴うことが、誰の目にも明らかになった。また、自公政権時代には、石炭火力発電所を大幅に増加させてきたが、茨城県から宮城県の海岸に立地する石炭・石油の大規模火力発電所も停止した。
 被災地の生活復旧・産業復興とともに脱原発を進める課題と、温室効果ガス25%削減目標とは十分に両立可能である。「震災復興か、温暖化対策か」という乱暴な議論で脆弱な大量エネルギー消費社会への後戻りを指向するのではなく、震災地域の復興に必要な電気や燃料を届け、地域産業が復活し雇用も増え、かつ次世代が温暖化リスクに直面しないような対策を進めることが必要である。
 これまで、政府は地球温暖化防止を理由に原発拡大を推進し、その一方で再生可能エネルギー普及の方針を掲げておきながら、発電分野では普及目標の極めて低いRPS法を採用し、熱利用や自動車燃料利用分野では有効な対策をとらず、その結果、一次エネルギーに対する再生可能エネルギー比率は減少傾向にある(IEA)。原発事故後、政府も原発拡大のエネルギー政策を見直すとしている。今後は、リスクを伴う原発や石炭利用を抑制しつつ、安全でCO2排出を抑制できる対策について、国民的議論を通じて選び、それを推進する政策を強化していくことが必要である。

(1)日本環境学会が提案する対策の柱

  • 大量エネルギー消費を継続しつつ、原発拡大と化石燃料消費を維持するという、安全性と価格高騰・供給不安のリスクを抱える道は否定されたと言える。対策の柱に、再生可能エネルギー普及、省エネ・エネルギー効率改善、石炭依存低下を掲げるべきである。
  • 日本環境学会では2009年に、原発を拡大せず、省エネ、再生可能エネルギー普及を進め、石炭利用をほぼ1990年水準に戻すことで、2020年までに温室効果ガス排出量の25%削減を実現できることを示した(『人間と環境』第35巻、第3号、2009年11月)。これに原発縮小分の追加対策を行い、震災復興を図りながら25%削減することは十分に可能である。被災地の電源確保には天然ガス火力発電、再生可能エネルギー電力、需要側の省エネなど、多様な選択肢があり、25%削減と両立する。
  • 再生可能エネルギーは大きなポテンシャルがある。電力については、2020年に日本全体の20-25%を再生可能エネルギーで賄える。熱利用では、日本に豊富なバイオマス、太陽熱、地熱等を活用すれば、CO2削減とともに産業発展や雇用拡大も実現できる。震災復興でも、再生可能エネルギー発電、地域暖房、エネルギー作物栽培などを推進し、エネルギー生産・供給地にすることも可能である。 津波被害で発生した大量のバイオマス系廃棄物をエネルギー源として活用することも考えられる。
  • 省エネ技術はLNG火力発電所、各種工場設備、オフィス、家庭、自動車などで急速かつ広範囲に進んだ。既存の工場やオフィスの省エネプロジェクトでは15-30%もの削減実績がある。現状の設備を2020年までに最新の高効率設備に計画的に置き換えていくことで、工場も含め、大きな排出削減が達成できる。また、現在、東日本で多くの主体の努力で実現している節電を今後も活かしていくことが考えられる。
  • 送電事業と発電事業の分離。地域間の電力融通や再生可能エネルギー普及促進のために、電力事業に関しては、地域独占的体制をなくするとともに、他国と同様に発電事業と送配電事業を経営的に分離する必要があり、その実現を目指すべきである。

(2)2012年までの6%削減目標
 上述のように震災復興、原発代替の手段は存在する。京都議定書の第一約束期間、2008-12年目標である6%削減(1990年比)も、震災復興を図り、2011年に火力発電を活用しながらでも十分に可能である。

(3)対策を進めるための国内制度
 震災復興の電気を確保し、同時に将来の持続可能な低炭素社会につながる設備投資やインフラ整備を進めるには、「震災復興」と温暖化対策を二者択一と考えず、統合的な対策を進める制度の抜本改革が必要である。政府も表明し、自治体も求めているように、原発依存を断ち切り、省エネ、再生可能エネルギー拡大と石炭依存縮小のための制度を導入すべきである。
 再生可能エネルギー電力の普及促進のために、適切な電力買取補償制度(FIT)の採用が不可欠である。あらゆる再生可能エネルギー電力の全量買取を適切な価格・期間で実施し、その財源に原発拡大に使用してきた電源開発促進税収を活用することで、需要側の負担軽減を図るべきである。再生可能エネルギー熱普及制度についても、ドイツで効果を挙げている、新築建築物に一定の再生可能エネルギー熱利用設備導入を義務づける制度などを検討すべきである。
 また、炭素税も導入すべきである。企業などに燃料削減を促し、また建築物の断熱規制強化や省エネ機器規制強化で、地域の小口事業者や家庭でも投資のルールを充実し、地域に低炭素のインフラをつくっていくこと、前述の省電力支援制度を省エネ全体に全国規模で拡大していくことなども企業など広範な温暖化対策を後押しする。税収は福祉や再生可能エネルギー普及に使用すればよい。
 「排出量取引(総量削減義務化)制度」は、国内大口排出事業所、とりわけ排出の6割以上を占める電力・石油・鉄鋼・化学・セメント・製紙6業種の事業所などに、省エネと石炭依存縮小を計画的に進める政策である。ポイントは、大口全体で25%以上の削減を定め総量削減義務を割り振ること、発電所も総量削減を課すことである。これは排出削減政策であると同時に、経済的には復興と投資のルールを定めることで、環境投資や雇用を増加させ、大規模排出者にとっても光熱費減と化石燃料依存リスク低下により競争力を高めることができる一石二鳥の制度である。
 また、電力会社ごと縦割の送電網のために、西日本の電気を被災した東日本にわずかしか送れない問題が明らかになった。再生可能エネルギーの拡大と電力安定供給には、送電網を全国版のスマートグリッドにつくりかえ、地域独占的な電力会社体制も変えていくことが必要である。

(4)国際制度
 今後の温暖化対策強化をめざす国際交渉では、科学の要請に応え、将来の被害をおさえるため、「先進国の制度強化」(京都議定書の目標強化)、「途上国を含む制度強化」の2本建てで議論が進んでいる。これに対し、日本、カナダ、ロシアの3カ国が「京都議定書の延長反対」を主張して抵抗している。日本を含む先進国が目標を強化しなければ途上国の対策強化も期待できず、対策を先送りして気候変動が激化すれば将来世代の生存地盤が揺らぐ。日本の25%削減国内対策に問題があるとは考えられず、温暖化対策が経済への悪影響を与えるという主張にも根拠がない。現実に温室効果ガスを大幅に削減している諸国で、経済が停滞しているという事実はみられない。世界の対策強化のため、日本は国内25%削減目標を引き続き確約すべきである。震災を受けた日本が25%目標を堅持し、途上国支援も含めて表明することは、途上国の理解を深め、対策強化を促す契機になり、国際的評価も高まるはずだ。気候変動の被害を最低限に抑えるため、国際協力に努めるべきである。

(5)経済や雇用との関係
 原子力発電所の事故は、震災被害者の捜索・救助、被災地の生活の回復、震災復興の大きな妨げになっているだけでなく、震災を直接受けなかった全国の国民生活、農林水産業だけでなく製造業・第三次産業など日本の多くの企業活動や輸出に大きな悪影響をもたらした。経済や雇用だけを考えても、原発中心のエネルギーへの復帰はありえないだろう。
 一方、温暖化対策は、日本の雇用拡大、震災復興と地域雇用拡大にも効果がある。25%削減は、同時に年間20〜25兆円もの化石燃料輸入を大幅に減らし、先に挙げた対策需要により国内産業需要や雇用拡大にまわし、さらに輸出の4分の3を占める機械産業などが省エネ製品・再生可能エネルギー製品の競争力強化をすることでもある。日本と同じ工業国であり、日本と異なり脱原発を図り、省エネと再生可能エネルギー普及を国民参加で進めてきたドイツでは、すでに電力の17%を再生可能エネルギーで賄い、再生可能エネルギー産業の発展、それによる37万人の雇用創出、農村の活性化等の好影響をもたらしている。
 震災復興のエネルギー投資を従来の集中型エネルギーではなく、地域で省エネと再生可能エネルギー普及を進めれば、農林業や地域産業の発展も期待することができる。

(6)まとめ
 今回の震災と事故で、原発のリスクは誰の目にも明らかになった。
 震災復興と温暖化対策、2020年温室効果ガス25%削減は両立する。被災地の復興、健全な産業発展、雇用創出、農山村地域の活性化のためにも、25%削減に向け、再生可能エネルギーや省エネを柱とする政策を強化すべきである。
 政策の立案や実現には多くの知恵を結集していく必要がある。日本環境学会も積極的に協力していきたい。