鳩山首相の『2020年に90年比25%削減』国連演説を歓迎する
2009年9月23日
昨日、鳩山首相が国連・気候変動首脳会合で、「IPCCにおける議論を踏まえ、先進国は、率先して排出削減に努める必要がある」として「中期目標についても、温暖化を止めるために科学が要請する水準に基づくものとして、1990年比で 2020年までに25%削減をめざす」ことを表明した。また、「産業革命以来続いてきた社会構造を転換し、持続可能な社会をつくるということこそが、次の世代に対する責務である」と結びました。
本学会は、これまでも科学的見地から、本年5月31日と6月13日の2度の声明発表などを通じて,前政権が表明した不十分な目標を改め、IPCCが2020年までに先進国に求めた90年比25-40%削減目標を掲げることを求めてきた。また、持続可能な社会への発展の重要性を主張してきた。新政権が、科学的要請に基づく目標を掲げ、社会構造の転換の必要性を示し、それを国際的に表明したことを歓迎する。同時に,将来の気候変動被害を可能な限り軽減するために、今後、削減目標をさらに高めるよう要望する。
今後、12月のCOP15にむけた京都議定書次期目標交渉と並行し、国内対策の抜本強化に着手しなければならない。鳩山首相は、「国内排出量取引制度や、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の導入、地球温暖化対策税の検討をはじめとして、あらゆる政策を総動員して実現をめざしていく決意」を表明したことは重要である。このような政策を通じて,国際的責務を果たすとともに,日本を持続可能な低炭素社会に発展させていくために不可欠な留意点を指摘しておきたい。
第一に、1990年比25%以上の削減を国内対策でやりきることである。科学的に要請されている2050年に80%以上の削減につなげるには、海外からの排出枠購入や森林吸収の特例など、一時しのぎで行うべきではない。また、その方が長期的には日本の財政的負担も軽減できる。
第二に、削減対策は省エネルギー、燃料転換、再生可能エネルギー普及を中心に実施することである。日本にはすでに利用可能な優れた技術があり、さらにそれらを高度化させる力もある。巨大地震の多い国土での原子力発電所増設やCCS(CO2隔離貯蔵)などの推進は、重大事故のリスクを高めるとともに、エネルギー多消費社会を継続することとなり、持続可能な低炭素社会への展望は切り開けない。
第三に、全CO2排出量の3分の2を占める発電所や工場など少数の大口排出源の削減強化を図ることである。それらの中には30年以上前に建設されたCO2排出原単位の劣る施設が少なくない。そのすべてを最新省エネ技術に更新すれば膨大な排出削減が可能であり、生じた燃料費節減で更新コストを回収でき、国内需要と雇用をもたらす。更新される諸施設が2050年頃まで利用されると展望すれば、長期目標も視野に入れ、今こそ更新されるべき好機といえる
第四に、化石燃料と原子力への依存から脱却するために、買取制度(FIT)の導入により再生可能エネルギーの普及促進を図ることである。全再生可能エネルギーを対象とするドイツ並の買取制度の導入で 2020年に電力の20%強を再生可能エネルギーにした場合,この時点で年間約1億トンのCO2排出を回避でき、不要になった火力発電費用を大幅に節減できる。2050年に再生可能エネルギー中心の社会を実現する場合でも、総買取費用の大部分を節減分でカバーできる。
日本では地球温暖化対策が経済にマイナスとの主張があり、前政権の「中期目標検討委員会」の試算に基づいて対策が「GDPを低下」、「家庭に負担」などと紹介された。しかし、この議論では、多数の研究で示されている、対策が不十分な場合の被害コストが被害抑制のために必要な対策コストをはるかに上回ることについては全く言及していない。また、試算の中身を検討すれば、GDPや家計の可処分所得はいずれの試算ケースでも現状より伸びるのに、ケース間の差を「負担」と捉えている。欧米では、米政権の「グリーンニューディール」に代表されるように、温暖化対策は経済回復・雇用拡大の柱と位置づけられている。対策先送りの現状維持が経済に最良などという考えでは、気候変動の甚大な被害を防げないばかりか、産業の国際競争力も維持できないであろう。逆に、日本でも温暖化対策を抜本強化すれば、健全な産業の発展と雇用創出、化石燃料輸入減少とエネルギー自給率向上、途上国支援などの国際貢献、さらには地域活性化など多くのメリットが期待できる。
気候変動の被害を国際協力によって軽減し、安全で持続可能な世界を実現するため、日本が率先して効果的な政策導入,それに基づく削減対策の推進、結果の検証を踏まえた対策強化、途上国への協力など、の積極的な対応を求めたい。
日本環境学会は、今後も研究成果と知見を活かして、日本の温暖化対策の前進のために協力していく所存である。
以上