日本環境学会声明:日本の温室効果ガス削減中期目標の決定に当たって

日本の温室効果ガス削減中期目標の決定に当たって
-科学的知見に基づき気候変動・地球温暖化の被害防止を最重視した目標選択を-

2009年5月31日

 今年4月,中期目標検討委員会は6つの「選択肢」(+4%~-25%)を公表し,政府は6月中に温室効果ガス排出の削減中期目標を最終決定するとしている。そのなかで,選択肢に排出増加目標が入っていることに象徴されるように,気候変動・地球温暖化の被害を最低限に抑えるという判断基準が軽視されていることは批判せざるを得ない。この目標設定において最重視されるべきは,将来の地球環境への重大影響を回避し,未来世代への負荷を可能な限り軽減するための科学的判断である。日本の目標設定も,IPCC報告書等に代表され,国際的に共有されている科学的知見に基づいて行われるべきである。

前提-気候変動の被害を最低限にすることを最重視-
 IPCC第四次影響評価報告書(2007)は,気候変動・地球温暖化が人類の生存基盤を脅かす危険性を警告している。将来の気温上昇を産業革命前から2℃程度以上になると,最大30%の生物種の絶滅など,地球環境に不可逆的で重大影響が出ることや,人類も甚大な被害を被ると予測されている。したがって,気温上昇を2℃以下に抑えることは,最低限の目標であるが,そのためには先進国が2020年に温室効果ガス排出量を25~40%削減する必要があると指摘されている。また英国政府報告「気候変動の経済学」(スターン・レビュー)は,積極的な気候変動対策に要する負担は,対策を採らなかった場合の将来の損失よりはるかに小さいことを示した。
 将来の被害を最低限にするには,まず先進国が大幅削減目標を掲げ,世界全体の削減を促していく必要がある。日本を含むすべての先進国が,2020年に温室効果ガス排出量を1990年比25~40%削減する目標を共有すべきである。

日本も国際的責務を果たせる対策を
 気候変動枠組み条約および京都議定書特別部会では,気候変動の被害を最低限に抑えるために科学的要請にどう応えるかを議論し,IPCCの上記指摘に留意することを確認している。日本は人口1人当たり排出量が世界平均の2倍以上かつ先進国平均レベルであり,購買力平価GDP比排出量は欧州と同程度である。しかも,1990年以降,CO2排出量の多い石炭消費の大幅増加は,他の先進国ではみられない傾向である。それゆえに,世界銀行が発表した世界70カ国の温暖化対策評価(2008)において,日本は62位,先進国中最下位という結果となっている。日本が,率先して25~40%削減の目標を設定することは国際的責務を果たし,信頼を勝ち取る唯一の選択である。25%以下の削減目標は,科学的判断からはあり得ない選択であり,日本の国際的信頼を失墜させるものである。

日本にも十分な削減余地
 日本環境学会では温室効果ガス排出実態の分析を行ってきた。日本の温室効果ガス排出量の95%を占めるCO2排出割合(直接排出)は,エネルギー転換(発電所等)と産業(工場等),工業プロセスで7割近くを占め,エネルギー転換で増加が著しいこと,大口排出業種でもCO2原単位改善が必ずしも進んでいないことが明らかになった。また,発電所のように売上に占める燃料コストの高いところでもエネルギー・CO2原単位に大きなばらつきがあることも明らかになった。中期目標の議論では発電所と工場の削減対策がメインの議論にならなかったが,日本でもこれらの削減余地の大きさが示唆される。
 また,多くの先進国が再生可能エネルギーの普及を推進する中で,日本の一次エネルギーに占める再生可能エネルギー比率は1990年以降,ほぼ横ばい状態である。日本にも再生可能エネルギー資源は豊富に存在しており,適切な政策をとれば,飛躍的な普及が可能である。
 これらの点を改善すれば,日本でもCO2の大幅削減は十分に可能である。

被害防止のため構造転換こそ日本の発展をもたらす道
 2020年時点の産業構造・各種ストック・社会基盤は,2050年頃までの排出と将来の被害を左右する。現在の産業構造・経済社会の維持,延長を前提にするのではなく,気温上昇を抑え,気候変動の被害を最低限に抑える産業構造・経済社会への転換を図る必要がある。
 しかも,そのような転換こそが日本の発展をもたらす道である。再生可能エネルギー普及促進など,温暖化対策に積極的に取り組めば,化石燃料コスト負担とその供給リスクを軽減し,エネルギー自給率を高め,将来性ある産業と技術を発展させ,内需と雇用を拡大することができる。日本の産業の国際競争力を高めつつ,発展途上国の温暖化対策への協力等を通じて,日本に対する国際的評価を高めることにもつながる。地球温暖化対策は経済・産業の抜本転換と持続可能な社会への発展の好機といえるのである。
 日本政府に対して,既存の省エネ・再生可能エネルギー技術の普及を中心とした持続可能な「低炭素社会」への移行に向けて,科学的要請に基づく野心的な中期目標の設定とその達成を担保する政策づくりに直ちに着手することを求める。自治体にも,「低炭素地域づくり」の対策・政策議論を始めることを求めたい。
 日本環境学会は,地球温暖化・気候変動に関する研究とその実践的活用を通じて,日本の地球温暖化対策の前進のために貢献していく所存である。

以上


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